MNTSQ株式会社 代表の板谷さんが語る『弁護士からIT経営者へ』

【MNTSQ社 創業経緯】

▼松井
MNTSQ社は創業時からお付き合いをさせていただき、何名もご入社いただいてきましたが、改めて、板谷さんが創業した経緯を教えて頂ければ

▼板谷
私は長島・大野・常松法律事務所(以下、NO&T)で弁護士として働いていたのですが、仕事自体は非常に楽しかったです。

ある時、大手金融機関をクライアントとして、スタートアップ企業に融資する案件を担当しました。
私は金融機関側の弁護士なので、端的に言えば、金融機関がリスクを最小化出来る契約書を作成しました。
その後、相手のスタートアップ企業の代表から電話があったことから、契約内容を、もう少しスタートアップ企業寄りに変更をするための相談だと予想していたのですが、実際には、
「板谷先生に対して全幅の信頼をしているので、進めてください。これで当社の事業を加速化できます。今回は本当にありがとうございました!」
という感謝の言葉とともに、契約の締結をいただきました。

顧客である金融機関の利益を最大化出来た訳ですし、その取引先の代表も喜んでいる。
弁護士としては良い仕事が出来たのかもしれません。
ただ、「社会のため」の事業を行っている起業家に対して、私は「顧客のため」の仕事は出来たものの、「社会のため」の仕事が出来ているのか。
そう考えた時に「顧客正義よりも社会正義を優先したい」「社会のために働いていきたい」といった思いが明確化されました。

また、目の前の顧客のために働いたとしても、世の中では年間に5億件の契約が締結されています。
1件1件のベスト・プラクティスを目指す仕事も重要ですが、私がやりたいのは、ベスト・プラクティスを世の中に広げていき、皆さんに活用してもらうこと。
ある意味で、エンジニアがオープンソースに貢献していくように、社会に役立つ法律のプラットフォームを作っていきたいと考えるようになりました。

【プロダクト化】

▼松井

その後、大学の同級生でもあり、AIトップ企業のPKSHA Technology社の経営チームにもいた安野さんや堅山さんと相談して、プロダクトを作られたと記憶していますが、プロダクトを作るまでの過程はスムーズだったのでしょうか。

▼板谷

まずは、「世の中に広く使ってもらえるプロダクトを作る構想は面白いよね」という話で盛り上がりました。

また、幸運だったことに、PKSHA Technology社で、自然言語処理のプロダクトを出していた安野と堅山は、その事業的・技術的知見も持ち合わせていました。

そこから私自身が、契約を手作業で作成していき、それを教師データとしたB版のプロダクトを作り、ある程度の品質の良いプロダクトを作ることが出来ました。

ただ、一定水準を超えてくると、AIの基となる、データが圧倒的に不足していたことから、品質の向上に、限界を感じるようになりました。

その状況をNO&Tにおける私の師匠格にあたる藤原さんに相談をしたところ、彼らが持つ日本でトップクラスの「契約文言」や「法的ノウハウ」を提供してくれるという話をいただきました。

これだけの高品質なバックグラウンドを持ったリーガルプロダクトは、世界でも類を見ないと思います。

それ以降、プロダクトの質が格段に改善され、大きな転換期となりました。

▼松井

どれだけ優秀な弁護士であっても、個人の経験則は何らかの偏りが出るでしょうし、大量なデータを読み込むと、社会にとって公正なプロダクトに成長していきそうですね。

▼板谷

まさに仰るとおりで、契約というものは、「これが公正な契約のはず」といった各企業の「思い込みの塊」といった性質も持っています。

お互いが正しいと思っているからこそ、平行線で決着が付かないことも多々あります。

「これが、正しい落とし所です」といったベスト・プラクティスを提示出来れば、その思い込みの殻を破って、生産的な活動に早く移行出来るのではないかと考えています。

▼松井

なるほどです。

それで理論上は、日本でトップクラスの「AI技術と事業活用」×「契約データ」を踏まえたプロダクトを作ることが出来るようになったと思うのですが、御社のクライアント企業は日本を代表する企業ばかりです。

そのクライアント企業のニーズに、スタートアップ企業が応えることは非常に難しかったと思います。

その点は、どのようにクリアにしていったのでしょうか。

▼板谷

仰るとおりで、現状での当社の顧客は、売上高1000億円以上の企業ばかりです。

我々は受託も個別カスタマイズも手がけていないため、彼らの「複雑で高度な要求を吸い上げて」「プロダクトに反映していく」必要があります。

これは、かなり困難な仕事です。

「膨大なデータ」「社会の事情に合わせた説得力」「プロダクトの磨き込み」が必要になってきます。

我々は、幸いにしてエンジニア、PDM、営業、CX、弁護士など、プロダクトを作り込むメンバーと、その魅力を顧客に伝えていくメンバーに恵まれています。

まだまだ道半ばですが、弊社のプロダクトが、要求水準が高い顧客から支持されているのは、それを実装できる仲間がいるからだと考えています。

【「事業と法」「人と法」の関係性】

▼松井
顧客や世の中の、法的なニーズをプロダクトに落とし込むことが出来ているのは、素晴らしいですね。
少し話が変わりますが、私はヘッドハンターとして、弁護士の方々など、法務領域における転職支援をすることが度々あります。
企業側が特に重要視している点が、「リスクヘッジのために、事業を止めること」ではなく、「事業成長のために、リスクヘッジを行うこと」のように見受けられます。
抽象度が高い質問で恐縮ですが、「事業と法務の関係性」について、板谷さんとしては、どのようにお考えですか?

▼板谷さん
非常に大切な考え方ですよね。
言語化が難しい部分でもあるのですが、
「法律は、事業を制約する」
「法律家は、制約を理解した上で、事業を推進する」
だと考えています。

例えば、ITの世界で言えば、『Airbnb』や『Uber』なども、「こういう使い方すれば現行法との兼ね合いの中で使えますよね」と推進したり、日本のアプリだと『LUUP』が「自転車に近い考え方」として、今のような使い方が出来ていると思います。

リーガルテックのプロダクトにしても、AIによる契約書チェックは『非弁行為』(弁護士でない人が弁護士の仕事をする行為)にあたる可能性があるとして、法律分野では利用を控える傾向があったかと思いますが、法律の制約の「形式」ではなく「本質」を理解することで、物事を前に進めることが出来ていると思います。

NO&T時代にも、
「正しくリスクを、説明出来る」レベルは二流。
「リスクを正しく取る方法を、説明出来る」ことで一流だと教えられました。

昔の弁護士は殿様商売だった部分があるので、リスクの理解だけで良かった。
今は、弁護士が増えてきていて、殿様商売だと成立しなくなってきています。
顧客満足を上げていく必要があります。
顧客満足とは、リスクを取らないことではなく、事業成長に貢献すること。
弁護士もそうですが、法務畑の人たちは、リスクの理解に留まらず、リスクの本質や事業成長に目を向ける必要があります。

その意味で、リーガルテックのプロダクトは、法務畑の方々が、本来行うべき仕事に目を向ける時間と機会を提供できると信じています。
今までは文章をつくる人だったのが、事業をつくる人になった。
ドキュメンテイターから、ネゴシエイターに変化する部分もある。
プロダクトを通して、そのようなお手伝いをしていきたいと思います。

▼松井
なるほどです。
「事業と法務の関係性」の考え方については、一定の理解をしたのですが、「人と法律の関係性」に関しては、どのようにお考えですか?
素人話で恐縮ですが、私は漫画キングダムで、李斯が「法とは、国からの願いである」という一説が好きで、法の存在価値について考える時に、腹落ち感があった言葉なんですよね。
その点について、法律の専門家である板谷さんは、どのように考えていらっしゃいますか?

▼板谷
あれは印象的なシーンでしたね!
ただ、「法は、願い」はどうでしょうね、、。
あと、個人的には、キングダムの別箇所で出ていた「人の本質は火である」のほうが好きな言葉ですが、、(笑)

言語化が難しいですが、私は「法は、約束」だと思っています。
日本で言えば、1億2千万人が決めた約束。

最近の法哲学に『無知のヴェール』という、公平無私な正義観を引き出す考え方があります。
これは、
『自分が真っ白な状態で生まれた時、社会の原理や制度を決めるとしたらどのような選択をするか』
という仮定に基づいているものです。
自分が最悪の境遇に立たされるリスクがある中でルールを決める場合、人は、できる限り公平な原理を選択するはずといった考え方です。

▼松井
正直、初めて聞いた考え方なので、よく分からない部分もあるのですが、それは
「根源的なものだけは決めていきましょう」
「法や制約は、最低限のほうが良い」
といった考え方に近いのでしょうか。

▼板谷
これも言語化が難しい部分もありますが、そのような考え方も含まれていると思います。
全ての法を理解することは、どれだけ優秀な法律家でも、不可能です。
一方で、私たちは、こうして話をしている今でも、刑法、民法など、様々な法律の中で生きています。
それを全て理解することは不可能ですし、「何が必要か」を当事者が理解している訳ではない。
アルゴリズムの役割は、本人が理解をしていなくても、その人にマッチした法律や約束事を届けること。
抽象度が高い課題感をAIが理解をして、その人にマッチしていると推測される解決策を提案する。
その意味では、MNTSQのプロダクトは、今のAIの流れは大きなチャンスになっています。

【弁護士からIT経営者への転身の意味】

▼松井
板谷さんと話をしていると、上手く言えませんが、法が好きなのだなと感じます。
法を持つ力を信じていて、いかに人や事業に役立つかを信じているとも言えるかもしれません。
一方で、板谷さんは、もともと戦略ファームに就職する予定だったと聞いたことがありますし、もともと、法を好きだった訳ではないと記憶しています。
どのように法が好きになっていったのでしょうか。

▼板谷
もともと東大法学部に入学したのは偏差値が高かったからですし、弁護士を目指そうと思ったのも、高い専門性や経営者としての資質、グローバル視点など、ありとあらゆる要素が高い水準で求められるという、「容赦ない厳しい環境で自分を試してみたい」という気持ちがありました。

▼松井
そうなると、スタートは、ある意味で「ステータス重視」だったり、「そのレベルにいること」自体に価値を感じていたのだと思います。

「高いステータスに所属する」ことから、「法を使って、世の中に良い影響を提供していきたい」という、「所属」から「行動、影響」に意識が変化したように見受けられます。
その意識の変化の流れを、もう少し教えてもらっても良いですか?

▼板谷
私は、法哲学に興味があって、特にアリストテレスの考え方が好きです。
アリストテレスの考え方の1つは「全ての人生の能力が開放されていることが幸せである。そして、幸せであることが人間にとっての最高善」といったものです。

ただし、人間は、各個人の能力や幸福の定義が、違ってきます。
その中で、皆んなが幸せを求める場合、契約は不可欠となります。
NO&Tに入って、世の中の契約と、その先にある幸せを担うことが出来ると考えていました。
ただし、前述のように、このままでは社会正義や人類の幸福を大きな形で担えないと考えて、従来の所属から離れて、より大きな行動と影響を求めるべく、起業に繋がった経緯があります。

また、弁護士の仕事は、「タイムチャージ」「顧客正義を重視」といった特徴があります。それは、「時間を掛けて」「公正ではなく、片方に有利な状況を作る」ことにも繋がってきます。
自分がIT経営者として進めているのは「無駄な時間は削除出来る」「公正なフォーマット」という、弁護士時代とは真逆の価値観を、世の中にバラ撒こうとしていることです。

これは一昔前であれば、到底、考えられないことです。
それにチャレンジしているのは、時代にマッチしていると思いますし、社会正義に通じると思いますし、協力をしてくれているNO&Tには感謝しきれない部分です。

▼松井
なぜ板谷さんが弁護士からIT経営者になったのかが理解出来てきました。
「顧客のためだけではなく、社会のために。」
「ルーティンワークから解放されて、クリエイティブな仕事のために。」
という考え方がベースにあるように思います。

とはいえ、弁護士からIT経営者に転身することは非常に難しかったと思います。
例えば、トップファームの弁護士は、「同質性」「高い専門性」「自走」などがキーワードになってくるように思います。
一方で、IT企業は「多様な職種」「様々なレベル感」「チームワーク」がポイントです。

抽象度が高い質問で恐縮ですが、「経営者と弁護士の違い」について、どのようにお考えですか?

▼板谷
これは、半端じゃなく違います。
全然、違います。
まさにアンラーニングの最中です。

例えば、弁護士は「決まった範囲内の仕事の中で、100点に近い点数を取りに行く」世界なので、上司や部下の上位互換的な存在となり、マネジメントであっても、トップダウンが成立するケースが多いです。

一方で、ITの世界だと、全てのメンバーが私よりも優れたスキルを持っています。
例えば、新卒のエンジニアでも私よりもコードを書けます。
上司であっても、上位互換ではないので、背中を見せるマネジメントではなく、経営者としての役割を全うすることしかないです。

また、経営者の場合、事業に限界はないので、「不完全でも良いので、どれだけカバー範囲を広げていけるか」だと考えています。
たとえば、完成度の高い仕事を行って95点を一つ作り上げていることは、弁護士的価値観では素晴らしいと言えるかもしれません。
ただ、事業の場合、私たちが丁寧に95点を取っている間に、他の企業が80点を3つ作り上げていることがあります。
完成度で言えば、95点のほうが上ですが、80点×3=240点のほうが高い点数となり、経営者の仕事としては後者のほうが優ります。
くわえて、経営は、足し算や掛け算ではなく、「指数関数的」に伸びていく傾向があります。
無限の選択肢の中で、スピーディーに実装していき、カバー範囲を最大化する、それが経営者として意識をしていることです。

▼松井
経営も、事業も限界が無いからこそ、難しいし、面白い。
とはいえ、本当に簡単ではないですよね。
いつも事業や組織のお話も聞いてきたのですが、今日は「そもそもの部分」について改めてお話を伺うことが出来て良かったです。
板谷さんのビジョンや人柄も理解を深めることが出来ましたし、そのビジョンを現実化していける方々を、今後もご紹介していければと思います。
本日はありがとうございました。
引き続きよろしくお願いします!

企業様・求職者様インタビュー
コラム